掌編小説「教室の小説書き」

「教室の小説書き」

高校の昼休み。友達の夏希と一緒に、お弁当を食べていた。

「澪、高村君さ、小説家目指しているんだって」

私の席は高村君の席の隣で、彼が授業中、熱心に鉛筆で何かを書き留めていたのをよく見かけていた。

あれは、小説を書いていたのかもしれないなと思った。

「ふーん。芥川賞とか目指してるのかな?」

「そうじゃない?でも無理だよねー。読んだことないけどさ」

まぁ、そうかもしれないけど、読まないのにそういうこと言うのは何だか印象が悪かった。

「そんなの分かんないじゃん。読んだことないのに」

私はつい、不機嫌な感じを出してしまった。

「もしかして、高村君のこと好きなの?」

夏希が、にやついて言うので、私は、

「そんなんじゃないよ」

とむきになって答えた。

 

昼休み明けは、数学の授業だった。

授業の初めから、眠たくて仕方なくて、先生の話していることが頭に入らない。

すると、佐川という先生がこちらを見て、睨んだかと思えば、つかつか歩いて、私の席の方にやってくる。

叱られると思った瞬間、

「高村!」

と佐川が怒鳴った。

「お前、さっきから、黒板を全然見てないな。何を書いている」

佐川は体を起こした高村君の机の上にある、紙を掴んで見た佐川は、

「何だ、こんなものを書いていたのか。こんなつまらん小説を書いてないで、勉強しろ」

と冷笑して、紙をビリビリに破き始めた。

「何すんだよ!」

高村君は紙を取り返そうとするが、佐川の手からもう破かれた紙は下に落ち始めていた。

高村君はしゃがんで、紙を拾い始めた。

私は思わず、席を立ち、拾うのを手伝った。

「ありがとう」

初めて、高村君の声を聞いた気がした。私はもっとオタクっぽい声かと思っていたが、そんなことはなく、澄んだ低い声だった。

授業が終わると、クラスメイトが心配して、高村君に話しかけてきた。

佐川は結構、生徒から嫌われているので、共感を得たらしい。

私も高村君と話したかったが、他の人が話しかけている手前、話せなかった。

 

「坂戸さん、だっけ?」

帰りのホームルームが終わった後、高村君が話しかけてきた。

「そうだよ」

「今日は、本当にありがとう」

「どういたしまして。でも酷いよね。何も破かなくても没収すればいいのに」

「俺、絶対、佐川を見返してやりたいんだ」

高村君は怒りのこもった表情をして、拳を握りしめていた。

「小説家になって?」

「うん」

「あのさ、小説見せてもらえないかな。他にも、書いているのがあるでしょう?」

断られるかと思いながら、思い切って話しかけた。

「いいよ。明日持ってくる。じゃ、俺、部活行くから」

と言って、高村君は鞄を持って、すぐに教室を出て行った。

 

文化祭が近くなっていた。

うちのクラスはどうするか、すごく揉めたのだけど、体育館での合唱に落ち着いた。

歌を覚えなくちゃいけないし、休み時間は合唱の練習に充てられていた。

「百合の学舎に若人来たり」

昼休みに、教室の自分の席で、練習していると、

「何で校歌なんだろうな。今の歌歌えばいいのに」

と教室を出ていた、高村君が席に戻ってきた。

「だって、なかなか出し物が決まらなくて、時間が無いから、校歌にしようって、岡島先生が言ったんだから、別にいいと思うけど」

「坂戸ってさ、いいやつだけど、すぐ騙されそうだな。それより、読んだ?」

「ひど、騙されそうって。まぁいいけど。読んだよ。面白かったよ。何であんなに上手に書けるの?」

「ずっと、中学の頃から書いているから」

淡々と答えているのが、何だかすごいと思った。

「そっか」

「あのさ、文化祭の日、主張大会あるじゃん?」

「ああ、あの、体育館の壇上に上がって、告白とかするやつでしょ?」

「うん。俺、出る事にしたんだ。佐川のズラをバラす」

高村君はこっちをじっと見て、真剣に言ってきた。

「マジで?っていうか、佐川ズラなの?」

佐川はまだ二十代のはずだが、ズラだとは…。

「うん」

笑いがこみ上げてきた。佐川がズラ。聞いただけで笑える。

「それでさ、俺が、ズラのことしゃべったら、佐川のことを探して、ズラを取ってほしいんだよね」

思わず吹き出して笑ってしまった。光景を想像するだけで、面白い。

「わかった。任せて」

 

文化祭恒例の主張大会はいつも、文化祭の最後に行われる。

いつも大盛況で、他校から見学に来た高校生も、参加したりする。

私は合唱の出し物が終わり、ほっとしたが、佐川を探さなければならない事を思いだして、探し始めた。体育館の中にいるかなと思ったが、薄暗いのでなかなか見つからない。

やっと、体育館の端で見つけたのは、もう主張大会が始まりだした頃だった。

他の先生としゃべっている。

私はその後ろの、離れた所に立った。

高村君の番をじっと待っていた。

すると、佐川は、他の先生との話をやめて、入り口の方に歩いて行った。

私は思わず、

「佐川先生!」

と引き留めようとした。

佐川はこっちを振り返り、

「どうした?坂戸」

すると、もの凄く大きな声が私達を襲った。

「佐川!佐川知基!」

と、もの凄く大きな声がキーンという音と共に、響いてきて、思わず耳を塞いだ。

「この前はよくも、俺の原稿を破いてくれたな。俺は、必ず芥川賞をとって、見返してやるからな、ハゲ佐川!」

と、こちらに向かって、指差したので、皆がこっちを向いた。

私はチャンスとばかりに、私より背が高い佐川の髪を、手を伸ばして掴み取った。

その後、佐川を見ると、つるつるに頭がハゲていた。

会場がドッと湧いて、みんな爆笑した。佐川は頭を手で抱えて、慌てて、私が取ったカツラを奪い取って、体育館を出て行った。

 

高村君と私は、その後、担任の岡島先生に職員室に連れて行かれ、佐川に謝るように言われた。

正直やり過ぎだったので、高村君も私も素直に謝った。

帰り際、佐川は、

芥川賞とれよ。約束だぞ」

と高村君に話しかけていた。

「もちろんです」

高村君はニッと笑い、職員室を出て行った。

 

 

あとがき

 

前に書いていた事を膨らませて書きました。

直したい所が諸々ある段階だけど小説をアップした - かくものの

ちなみに、上の記事に出てくる小説の登場人物二人(坂戸澪、高村悠真)の名前だけ借りました。多分違う人物です。

もっと詰めて行きたい所はあったのですが(高村君と坂戸澪の関係とか)、直すと別の小説になるので、ひとまずこれはこれで、置いておくことにしました。

後で書き直したい感じですが、最後のシーンは好きです。

おしまい。

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