直したい所が諸々ある段階だけど小説をアップした

ひかりです。

この前書いた小説を載せてみます。

 

「かくものの」

梅雨の終わりに一番待っていた電話は、望んでいた内容と違ったものだった。
「坂戸先生、残念ですが、今回は落選でした」
その後、何と答えたのか自分でも分からず、気が付けば電話を切っていた。

私は小説を書いていて、作家になって四年目になる。
坂戸澪(さかとみお)というが、誰も知らないだろう。
もし、知られているなら、今年の上半期の芥川賞候補に選ばれたことを知っている人達だと思える。
しかし、芥川賞は私の手をすり抜けてしまった。

夜、テレビのニュースを見ると、芥川賞と、直木賞の結果が流れていた。

担当編集者の黒川さんからはこう言われていた。
「今回芥川賞が取れなければ、厳しいです。今の会社の状況を考えると、先生の連載を受け入れることも、ましてや本を出すこともないでしょう。一応覚悟しておいて下さい」
だからといって、他の出版社に当たっても相手にされないだろうと思えた。

携帯電話が鳴り出した。ディスプレイには高村悠真と表示されていたので、電話に出る。
「はい」
「澪、久しぶり」
「どうして電話してきたの?距離を取ろうって言ってたの、悠真の方でしょう?」
「気になったんだよ。ニュースで芥川賞のことしてたから」
「それで、励まそうと思ってかけてきたの?」
「ああ」
この人のこういう所が好きだった。
悠真とは、大学生の時に友人からの紹介で知り合って、付き合い始めた。
悠真も、小説を書いていたが、賞に応募する気はなく、自分自身の為に書いているといった感じだった。だから、私が賞に応募していると知ると、すごく褒めてくれた。
私が新人賞を取った時も自分の事のように喜んでくれた。
けれど、去年の冬、悠真は私と距離を置きたいと言った。澪を見ていると、もう、自分の為だけに小説を書いているのをやめたくなったから、賞に応募すると言っていた。
「俺さあ、あの後書いたけど上手くいかなくてさ。澪はほんとすごいなって思った」
「そっか、投稿続けてるんだね」
「あのさ、会えないかな?俺の作品、読んでほしいんだ」
「いいけど」
日曜日、会う約束をした。

待ち合わせの日。私は普段着ないワンピースに身を包み、これも普段付けないイヤリングやネックレスを付けて、待ち合わせ場所に行った。
もうすでに、悠真は来ていて、こっちに気付いて近づいてきた。

この暑いのに、黒い半袖のシャツを着て来ていた彼は、水色のジーンズを履いていて、それが長い足を引き立てていた。

掛けられた眼鏡の奥から、優しげな瞳が覗いている。
「澪、ありがとう、来てくれて」
「別にいいよ」
悠真のアパートに行くと、書類が散乱していた。
「ごめん、片付けて無くて」
「いいけど。これ、全部悠真が書いたの?」
「うん。あのさ、これ見てくれない?」
差し出された書類の束を受け取り、読み始めた。
その間、悠真はドリップコーヒーを入れていた。
気が付いたら、夢中で読みふけっていた。
「悠真すごい。これいいよ」
「ありがとう。あのさ、その小説、澪が書いてみる気ない?」
「えっ!?私が?」

思いもしない事を言われ、私は戸惑った。
「うん。原作者になるから、澪がそれ書いてみて」
「でも、悠真が書いたんだから、普通に賞に応募すればいいんじゃない?」
「澪と書いてみたいんだ。距離を置いた後、一人で書いていても、楽しくなかった。澪とだったら、別に作家にならなくても、小説を書くのが楽しいと思うんだ」
悠真の深い黒色の瞳に吸い込まれそうだった。

悠真と書いた本は、ベストセラーとなり、私はまだ黒川さんに担当に付いてもらっていた。
まだ作家を名乗っていていいのだと思うとほっとする。
あの日、悠真からの電話がなければ、作家を諦めて、田舎に帰っていたと思う。
悠真の気遣いには本当に感謝している。

 

おしまい。

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